標記読了。第40回星雲賞(日本長編部門)および第30回日本SF大賞受賞。「ベストSF2009」国内篇第1位。
『虐殺器官』で鮮烈なデビューを果たした氏の長編2作目。近未来を描いたSFちょっと百合小説でめちゃくちゃ良作です。
少々おたくっぽい言い回し・文体が気になる人には読みにくいかもしれませんが、取り上げているテーマも、小説としてのオチも考えさせるものがありよくできていると思います。
人間の「身体」と「社会」が〈生府〉により制御されている『ハーモ二ー』の世界。この世界において、人が唯一、個的に持つことが出来るものは「わたしがわたしである」という自意識のみなのである。
という設定で世界観がしっかりと作られ精緻に描かれています。そして物語の本質は、「その最後に残った自意識すらも放棄した社会にこそ本物のハーモニーがある」という点になります。ここをめぐって物語が展開されていくのですが、文中HTMLタグのようなものが多数出てきます。anger やlaugh など簡単な単語が記されており、最後まで読み進めることにより、大きな意味を成すようになります。
日本のSF界を担う伊藤計劃ですが、2009年に34歳という若さで亡くなっています。屍者の帝国という本の執筆中でしたので、実質この作品が遺作です。2作とも名作であり読ませる本ですので、読んだことのない方は是非一度手に取ってください。死んだ人の本なら色々なことが許せる気がする。