6畳1間のあめ

ハンドボールとか音楽とか雑記とか。

【読書】 春琴抄 谷崎潤一郎

 

 その文学的変態性も名高い谷崎潤一郎の名作に手を付けていなかったので今更ですが読みました。

  

 まず読み始めて思うことが「読みずれぇ…」でしょう。その特徴的な文体は実験的であると言われており、極力句読点改行を省いてあります。しかし、盲目の人たちを扱った小説としてはこれもある種の盲目の表現の一環なのかなとも思います。そこさえクリアすればグッと引き込まれるめくるめくドエムの世界にようこそです。

 

 しかしドMと簡単に言うのは間違いでしょう。マゾヒズムを超越したより崇高な愛が其処にはあり、そしてその境地にはやすやすと踏み込めない「世界」があるのです。10代という多感な頃から何度も何度も反復した二人の関係は、その都度強化されお互いが離れられないようになっていきます。外から見るとその関係性は理解できない倒錯的なものですが、外界から閉じられた2人の世界では美しい純愛であり、互いに敬意を払う師弟愛があり、ありのままの自分をまるごと受け入れてくれる存在へと昇華されていきます。

 エスとエムという単純なものでは語れない、そして作中ですべてを語り尽くさないことによる多くの余韻が想像力を膨らませる手がかりとなっています。

 

  最近の本とは一味違うものを楽しみたい方はぜひ。