6畳1間のあめ

ハンドボールとか音楽とか雑記とか。

【読書】 夜は短し歩けよ乙女

 

 森見登美彦の名を世に知らしめた作品と個人的には思っているほどこの本が好きな私。今さら私があれこれ紹介する必要が無いほど様々な媒体となってこの作品は世に出ています。

 

 大学生の時分に一番読んだ本はこれだと思うのですが(読み込んだ本はまた別)、ではいったい何がいいのか。いったい何が特定の人種をここまで惹きつけるのか。夜は短し歩けよ乙女の魅力を考えてみようてみようと思います。

 

 まずその独特な文体。特に主人公である「私(先輩)」が話している文章はどこか胡散臭いにおいのする古風な言葉遣いである。文豪を思わせるようなそれは、「大衆」とは一線を画したい人々の心をぐっと捉える。

 そして、「着実に外堀は埋めている」「外堀埋めすぎだろ? いつまで埋める気だ。林檎の木を植えて、小屋でも建てて住むつもりか?」といったような言い回し。例えに例えを重ねてくる表現がなんとも回りくどく鼻にかかるが面白い。小説ならではの楽しみである。こういった表現が多様されているところが良い。

 

 次に主人公のうだつの上がらなさ。ここまで堕落志向でかつへたれを貫き通そうとするけどそうもしきれない絶妙な加減と、その大学生たる思考回路がだれしも懐かしさから共感できてしまうところが愛おしいのだ。そして好きな後輩が絡むとやる気を出すのにやっぱり上手くいかなくて可哀想なところもいい。

 

 古都京都を舞台に具体的な地名と古本市などの実在の出来事が出てくるため、想像しやすくかつ聖地めぐりしやすいところも裾野を広げた一因であろう。烏丸御池や竹林など京都らしさがムンムンで、その場所が文章とも一致しておりあの文体にも何となく納得させられてしまう。

 

 しかし、なんといっても最大の魅力はこの話が青春ラブコメなところだろう。男女のくっつく前のあの妙味。恋愛至上主義を謳うつもりはないが、恋のふわふわやドキドキというものはいくつになっても心を掴む。やれ結婚だ出産だ離婚だと現実世界では煩く付きまとうものもいったん忘れて、純粋に「好き」という気持ちだけを楽しめるのだ。そしてその「純粋な好き」というものがこの本は適当な塩梅なのである。お乳にどぎまぎしたり、ジョニーをなだめたり、一介の大学生の性欲もきちんと?出てきてそこもまたいい感じなのである。

 

夜は短し歩けよ乙女 角川文庫

夜は短し歩けよ乙女 角川文庫